| 悪く言えば、殺風景。良く言えば、シンプル。いや、シンプルの範疇を超えて人の住んでいた気配がないとでも言おうか。 黒のカラーボックスの上には埃が積もっていた。指でなぞるように拭うと、灰色の埃が指の腹に付着する。 使用もしていなければ、掃除もしていない。手付かずのまま、ただ置かれているだけの家具達。 窓を開けると夕陽が入り込み、おびただしい数の埃が浮かんでいるのが見えた。訝るように眉を潜めた自分の顔が電源の付いていないテレビに映る。 「買うだけ買って、使った痕跡はまるでありませんね……」 唯一使用感のあるベッドに横たわる。皺だらけのシーツ、ベッド上に散乱する幾つもの枕、脱ぎ散らかした寝衣。全て彼の物で、彼の匂いがした。移り香さえ愛しいと思ったのは初めてだ。 暫くそうしていると、うつらうつらとしてきた。睡魔に負けまいと目を擦り、意思とは裏腹に上体を起こす。 今日は彼の部屋を掃除しようという鬱勃に任せて部屋に足を踏み入れたのだ。掃除くらいはしてやろう、と。 ベッドから退き、まずは拭き掃除だと意気込んでいると、一つ枕を蹴り飛ばしてしまった。慌てて拾うと、枕カバーの内側に何がが入っている事に気が付いた。 「へそくりですかね」 そう独り言を言ってはみたものの、それが紙幣でないのは分かっていた。 手を突っ込み、表面がコーティングされた紙状の何かを引きずりだす。 それは一枚の写真だった。 「……僕の写真?」 裏面の日付は十年前。被写体は僕。背後に写っているのは、夕焼けの海。さざめく海と赤い太陽をバックに、屈託のない笑顔でピースしている。 ああそうだ。これは初めて彼とデートをした時の。 急に思い立ち、体が動いた。散らばる枕を一つ拾い、枕カバーに手を突っ込む。写真を取り出しては、また次の枕を手に。 そうして全ての写真を取り出した。ある物には三枚、ある物には五枚と、枚数こそ違ったものの、全ての枕に写真が隠されていた。 一枚ずつ見ていくと、やはり被写体は全て僕。たまに彼も写っていた。 裏面の日付を元に、古い順に並びかえてみる。初めに見つけた十年前の写真、次は九年前の冬に撮った写真、次は八年前に撮った写真、七年前に撮った写真、六年前の写真、五年前の……。 並び替えている途中、薄々感づいてはいたが、写真は十年前の物から今年の物までそれぞれ一枚ずつ、計十一枚あった。最近の物は二ヶ月前の写真で、僕が薄ら笑いを浮かべている写真だった。 それともう一つ、気付いた事がある。それは新しくなるにつれて、被写体(僕)の笑顔が消えていく事。 彼の意図は分からない。 なぜ枕カバーに写真を入れていたのか、何故一年につき一枚の写真なのか、笑顔の法則はただの偶然なのか、どうしてこれを置いていったのか……。彼がいなくなった今、確かめる術はない。 写真をゴミ箱に捨てた。気分転換でも、と掃除をしようとカラーボックスの中を覗くが、何もない。体を起こそうとすると、ボックスの中に光る何かがあった。 拾い上げて光に晒してみた。 「指輪……」 それと同じ指輪は、今も僕の薬指にはめられている。 指輪を握り締め、ゴミ箱の前に立つ。捨てようとした手は、いつしかゴミ箱の中にある写真を掴んでいた。移り香の残る彼のベッドで、僕は写真と指輪を握り締めて泣いた。 end. 短いお話でした。 枕に写真ってどうなんですかね、実際。 |