後悔なんかしてないよ。分かり切ってた事だから。
 それでも君が、好きだった。

 この季節。街はイルミネーションで彩られ、恋人達で賑わう。駅に続く大通り。手を繋ぐ人達、二人でマフラーを巻いている人達、仲良く笑い合う人達。擦れ違い様の人々が話す度に白い息。それは空に溶けて、冷たい風となり頬を掠めていく。
 一人の僕は駅に背を向けて、冷たい手に息を吹きかけ、両手を合わせて擦った。
 一方通行の想い。それに別れを告げた。これでいい。僕はいつでも、今までも、これからも一人きりだ。まるでドラマのようなベタな展開に自分だけが笑う。
 足を止めたら思い出してしまうから。思い出したらきっと、僕は泣いてしまうから。焦燥感に駆られ、歩みを進める足も比例するように早くなる。
 大丈夫。泣いたりしないから。
 その瞬間、頬に一際冷たい物。立ち止まって空を見上げれば、ふわり舞う粉雪。落ちては溶け、消えていった。

「初雪!」
 歓声が挙がり、賑やかな周りがさらに賑やかになる。
 ただ一人、佇む僕だけ体が震えてる。学ランに爪を立て、腕に跡が残るくらいにしっかりと握りしめた。

 今になって苦しくなる。普通の恋がしたくて、周りと同じようになりたくて、作った手編みのマフラー。自分らしくないと思って何度も捨てようとした。でも出来なかった。
 不格好だけど、下手くそだけど、一緒懸命作った。でも骸に渡っているはずのそれは、未だ僕の手の中にある。どうしたら渡せた? この僕がどうやって? 自問自答を繰り返す。
 答えなんか簡単に出た。ただ怖かった。意気地無しなだけ。それを知りながら知らないフリをした。
 そんな自分が腹立たしくて憎くて、瞬きをした時に頬を伝った滴。雪だと思い込んで袖で拭った。隠れるように人気の無い裏通りに足を踏み入れる。
 綺麗にラッピングしたそれを投げ捨てようと思った。このまま持っていたって辛いだけだから。
「……雲雀、くん!」
 もう一層の事、叩きつけようと小包を振り上げた手。掴まれる、動けない。
 心臓が止まりそうで、呼吸の仕方さえ忘れるくらい。それほど君の存在は大きいんだよ。ねぇ、骸?

 握られた箇所が熱い。繋がりたい、何度も思った。ただ触れられてるだけなのに、それだけでこのまま時が止まればいいのにとさえ思ってしまう。
「これ……」
 小包に可愛げのない黒のネームペンで書いた文字。“骸へ”。 たったそれだけ。でもこの状況を理解するのには充分過ぎた。
「……ッ!」
 掴まれている手を無理矢理振り払い、小包を投げ捨てた。音を立てて転がっていく。積もり始めた雪にまみれ、水が紙袋に染み渡っていった。
 悔しさと苦しさと、良く分からない感情がごちゃ混ぜになっていく。
 この手は空っぽ。分かったのは、もう元には修復不可能と言うことだけ。サヨナラってこういう事?
 どうしても言えなかった。ずっと隠して押さえつけていた。前から決めていた、絶対に口外しないと。隠す度、痛みだす胸に「これで良いんだよ」と必死に言い聞かせた。
 でも、良くなんかなかった。思い出になるならそれで構わないなんて、ただの強がり。

 身を翻して骸に背を向ける。もう振り向かない。いつかこんな風になることくらい、分かっていた。
 なのに。
「待って下さい、」
 行かなくちゃ。そんなの分かってる。さっきみたいに手を振り払って、一度も振り返らずに帰ればいいだけ。分かってはいるのに、出来ない。
 君の優しさ。ここまで追い掛けてきてくれたところ、こうして引き留めてくれるところ、でもそれが、僕を傷つける優しさだという事はきっと君には分からない。
 だから。
「……離してよ」
 出逢えて良かった。君で良かった。
 キミが好きでした。それはきっと未来永劫に変わらない、揺るがない真実。

 顔を上げて笑えば、骸はゆっくり引き留めていた手を離した。
『ありがとう、サヨナラ』
 一言が言えない。
 たった一欠片の勇気を。
「骸、あの――」

 言いかけた唇。ゼロセンチの距離。
 唇が離れれば、ぎゅっと強く強く抱き締められた。
 もう言葉はイラナイ。お願い、今だけでいいからそのままでいて。泣いてもいいでしょ?
 初めてのキスは涙の味がした。
 別々に別れた道。
 来年の今頃にはどんな僕がいて、どんなキミがいて、この想いはどうなっているのかな。
「ありがとう。サヨナラ」
 体に残るキミの温もりを感じながら、そんな事を考えた。初めての恋が終わる時。

end.

題材曲:初めての恋が終わる時/ryo
大分前に書いた作品です。
今とは全然作風が違いますね。人って変わるものだなぁとつくづく思います。