※こちらの作品は15禁ですので義務教育未終了の方は観覧をお控え下さい。
 
 
 
 
 
 男の同性愛は鶏姦って言うんだって。
 なんで鶏なんだろうねぇ、骸?
 
 空き教室の教卓の内側に僕らは入り込んで、肩身を寄せ合っていた。隣の教室は数学の授業をしているのだろう。エックス云々、イコールしかじか、聞こえてくる。
 寒くて、狭い。冬休み前の学校は冷え冷えとしている。耐えてはいたが、気を抜いた瞬間に体が震え、骸に気付かれてしまった。骸は僕を引き寄せ、狭い教卓の内側でなんとか向きを変え、真っ正面から抱きしめた。既に密着しているというのにさらに密着する。骸に触れていない部分なんてないような気がするほどに。
 骸は何度か僕を抱き締める腕に力を入れ、溜め息を一つ吐き出した。
 
「もう誰も来ないようですから、出ましょうか」
 
 耳打ちされると、違う意味で体が震えた。それを紛らわすように、数回激しく頷くと、先に骸が警戒しながら這い出た。骸が離れてしまうと、途端に寒くなった。
 ちらりと外を覗くと、教室の扉が全開になっていた。そこから冷たい風が入り込んでくる上、廊下に人がいたら見つかってしまう。骸から聞いた話だが、黒曜は授業中に偶に教頭が見回りに来るらしい。それが事実なら、なおさら危険だ。それに、先程追ってきた不良達がこの辺りに来る可能性だって、十分にある。
 しかし運良く誰もいなかったようで、骸が「いいですよ」と声を掛けてきた。
 急いで僕も這い出て、腕を天井に向けて伸びをする骸を尻目に、空き教室の扉と面と向かう。落書きだらけの扉を音を立てないようにゆっくり閉め、さらに制服のポケットから黒曜中3のEとかかれた鍵を取り出し、外側からは誰も入れないようにする。
 教室には通常扉が前後二つあるが、この教室はどういうわけか一つしかない。それ故、都市伝説やら七不思議の一つにされているらしいが、おかげで鍵を二度閉める手間は省かれた。
 
「一安心ですね」
 
 そう言って目配せをしてくる骸に腹が立つ。伸びをしていただけのお前が言うな、と思った。
 落ち着いたところで改めて辺りを見回してみる。僕の目にまざまざと映った教室の状態に、愕然と落胆が入り乱れたような気持ちになった。呼吸すらする気が失せるほど、恐ろしく殺伐としている。
 お菓子の袋や雑誌、タバコの吸い殻など多種多様のゴミが床に散乱しており、至る所にチョークやスプレーで落書きがなされていた。特に目を引いた落書きは、天井に赤のスプレーで書かれたχ=6=sexというものだ。何を意図して書いたのか、何を表現したいのか、僕にはさっぱりわからない。そういう点も含め、一番気になった。
 次に見たロッカーと掃除用具入れは、無様に変形しており、用具入れは開きっぱなしで、錆びた金属バッドなど掃除には掠りもしない関係のない物が詰められている。辛うじて見える奥側には、どす黒い何かがこびりついていて、そこから邪推するに、恐らく中に人を入れて、何かしらの拷問を行ったと見た。
 八つ当たりされたのか、窓は木っ端微塵に粉砕していた。無駄に日当たりが良好なせいで日差しが入り込み、舞い上がる埃を酷く目立たせた。
 どこを見ても並盛とは大違いだ。流石この近辺で一番荒れていると言われる黒曜中だけのことはある。
 
「きったない」
「あ、見て下さい、今年の秋期限定、牛タン梅塩味のポテトチップスが」
 
 骸が駆けより、埃の積もったポテトチップスの袋を仕方なく汚物でもつまむようにつまみ上げている。恐る恐る僕も近付くと、骸は袋を逆さまにして、中に入っていた物をぶちまけた。
 中から出て来たのは、ポテトチップスではなく、ゴミだった。それも、丸めたティッシュと使用済みのコンドームだ。
 
「誰かここでしたんですかね」
 
 ポテトチップスを食べた後、ここでセックスしたのだろうか。
 骸はまた違うゴミをつつき、はしゃいでいる。
 
「これ、アンパンですよアンパン」
「不良はお菓子と甘い物が好きなの?」
「アンパンってそのアンパンじゃありませんよ、覚醒剤です」
 
 覚醒剤。薬物まで転がっているとは。この学校、どうかしてる。
 覚醒剤とコンドーム。頭の中には深夜この教室で、薬でラリってる上に乱交している男女数人の光景が嫌でも思い浮かぶ。もっと悪い想像では、女一人に薬を嗅がせ、抵抗出来ないようにし、輪姦するというものも湧き出てきた。確かラリってる間のセックスは、かなり気持ちいいと聞いたが、果たして本当なのだろうか。薬物という浮遊状態において、更にセックスで高みまで追い詰められたら、確かに気持ちいいのかもしれない。
 一人考えを巡らせている内に、骸はゴミ漁りを淡々とこなしていっていた。
 
「恭弥、面白い物が集まりましたよ」
 
 声を潜めて僕を呼ぶ。その声に素直に従い、綺麗に並べられた三つの物を覗き込む。
 骸の言う面白い物とは、シンナーを吸った後のゴミと、大人の玩具らしきものと、ジンギスカンキャラメルの空き箱だった。僕が脇からジンギスカンキャラメルの空き箱を取ると同時に、骸は大人と玩具――蛍光ピンクのローターと黒いバイブを取った。
 ジンギスカンキャラメルなんて美味しいのか、と悶々していると、急に骸が立ち上がった。凛々しい顔立ちでこちらに近付いてくるが、その手には華々しい色の玩具と、黒光りしている玩具が。手元と顔とを交互に見ると、骸は口角を吊り上げる。一歩後退ると、骸は二歩迫ってくる。
 やがて背中と壁がぶつかった時、一段と鼓動が早くなったような気がした。ジンギスカンキャラメルの箱が滑り落ち、転がって離れていく。
 寡黙の中で、僕はごく自然に口付けられ、骸は器用にシャツのボタンを胸元辺りまで外していった。いつの間にやら電源の入っていたローターが、シャツの上から肌に振動を伝える。反抗心は膨らんでいくものの、次第に足から床へと、背中から壁へと、力が抜けていってしまう。
 駄目だ、こういう事には滅法弱い。
 
「大丈夫ですよ。恭弥が大きい声を出しさえしなければ」
 
 こうなってしまっては、極力それを努めるしかなさそうだ。結局、僕はいつも骸に丸め込まれて、いいようにされる。
 両の手で口を押さえ、ひたすら耐えるか紛らわすのみ。意識を集中させないように全く別の事を考えたり、目を瞑ってみたりしたものの、それは一時の気休めにしかなり得なかった。だって気持ちいいのは、夢なんかじゃないから。
 胸板から脇腹に滑り、乳頭を執拗に責められ、肝心なところは後回しで、太ももの内側を優しく撫でた。
 焦らすように肌の上を縦横無尽に這っていた玩具が、やがてそそり立ったそれに触れた。本当に軽く触れただけなのに、僕は思わず果てそうになった。しかし堪えたのは、骸の科白があったからだった。
 
「だれか来ますよ」
 
 確かに、耳を澄ますと誰かが教室の前で何か話しているような音がする。
 
「見、回り?」
「みたいですね」
 
 しかし僕の頭の中はそれどころではなかった。
 危険な状況に身を投じているというのに、熱は一向に冷めない。むしろ中途半端にされた所為で、早く続きを、と促したくなる。
 骸は僕の唇に人差し指を当て、静かにしていろ、という合図をした。上がった口角を見て、嫌な予感がした。あろうことかそれは的中し、瞬間、振動が僕の体の弱い部分に伝わっていった。そこから生まれた快感が体を駆け巡り、生理的に声を漏らしてしまう。
 いつからこんな、ふしだらな身体になってしまったのだろう。骸が喉の奥で笑っている。
 ドアに一瞥をくれてから、骸を睨む。骸は微笑んだだけで、行為を続行する。声を出してはいけないとわかっているが、体は言うことを聞いてくれない。度々骸が静かに、と耳打ちするが、その時にかかる吐息で余計に体の熱は上昇する。
 
「誰かいるのか」
 
 ドアがノックされた時、さすがに冷や汗が湧いて出た。
 背伸びをして骸の耳に口を寄せると、履き慣らしたローファーがきゅう、と小さな音を立てる。声を潜めつつ、語勢を強める。
 
「ねぇ、骸、見つかるよ」
「もうバレているかもしれませんねぇ」
「どうするのさ」
「どう、と言われましても」
「こんな、こんなの……」
 
 並盛中の風紀委員長と、代行ではあるが黒曜中の生徒会長が、学校で性行為に勤しんでいるだなんて。それが素体であるのは確かだが、僕にとって素体を見られるということはすなわち、醜態、失態である。それに加えて男同士のセックスなんて、受け入れられるわけがない。
 骸は暫く眉を潜めていた。その間、隣の教室からは数学とは関係のないざわめきの声が聞こえた。空き教室に誰かがいるらしい、という事を聞いたのだろう。
 焦燥感に駆られる僕に、やがて骸はぱっと笑みを浮かべ、耳元で囁く。
 
「高い声で思いっきり、喘いで下さい」
 
 有無を言わせぬ間に、骸は僕のスラックスに手を滑り込ませた。
 僕は激しく抵抗した。人がいるのをわかっているというのに、喘ぐだなんて。骸の言うとおりにしてしまったら、僕が僕ではなくなる気がした。この一線だけは、越えてはいけない気がした。
 首を振って、骸の体を押し退けるも、弄る手に身体は確かに反応する。背を預けている壁の裏側には、人がいるというのに。そうしていつしか押し退けなければいけないはずの骸の腕に、しがみついてしまう。
 骸は暫しまた神妙な顔つきに戻っていたが、少し乱暴に僕のものを扱い、そのままイかされてしまった。出来る限り我慢はしたが、微かに声を漏らしてしまった。物凄い敗北感が全身を支配し、壁に凭れ、ずるずるとへたり込み、余韻に浸る。
 骸は屈んで僕にキスをしてから、堂々と鍵を取り、教室の扉を開けた。血の気が引いていくのが、はっきりとわかった。
 
「僕は今から、雲雀恭弥とセックスしますから、邪魔をしないで下さい」
 
 骸は扉の外にそう言い放ち、一礼してから、また扉を閉めて、律儀に鍵を掛けた。
 隣の教室のざわめきは消え、ドアを叩いていた人物らの足音も遠ざかっていく。例え扉の向こう側にいた人物が追いかけてきた不良共だとしても、骸はきっと、同じ事をしただろう。
 しかし、本当にこれで良かったのだろうか。埃が蓄積した床に爪を立てたら、滑った。
 
「僕らは人間以下なのかもしれない」
 
 骸は僕の正面にしゃがみ込み、罰が悪そうに苦笑する。
 
「男の同性愛を、鶏姦って言うんだよ」
「けいかん、ですか?」
「鶏に、女が三つの姦」
 
 確か鶏姦と呼ばれるようになった一説には、鶏の輸卵管開口部が肛門に似ているためだとか、あと二つくらいあった気がするけど、忘れてしまった。
 俯いて、床の節目に爪を引っ掛けてカリカリと遊ぶ僕に、骸は下からぬっと出て来て、突然キスをした。
 
「三歩歩いても忘れられないくらいの事をしてあげますよ」
 
 天井に書かれたχ=6=sexを見て考える。確かにエックスとシックスとセックスは似てるかもしれない。
 埃まみれの床に組み敷かれるのは心外だったけど、もはやどうでもよくなった。僕達は人間以下の鶏以上。二人一緒なら、それでいい。骸には絶対言わないけど。
 骸は性急に僕のシャツを破り、舌なめずりをする。そんな骸の背後には、窓から差し込んだ太陽光線が、舞い上がる埃を部分的に映している。
 そうこうしている間に、授業終了のチャイムが鳴った。
 
end.
 
何も考えないで書くとこうなります。
鶏って確か3歩歩いたら歩く前のこと忘れるんですよね? あれ?